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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)3544号 判決 1985年6月21日

原告

逆瀬川清信

被告

株式会社栄光社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、金五六万三六六八円及びこれに対する昭和五一年四月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自、金二六八万八四六〇円及びこれに対する昭和五一年四月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五一年四月二八日午前九時四五分ころ

(二) 場所 名古屋市中川区富田町大字万場字北畑中五〇九番地五先路上(以下、「本件事故現場」という。)

(三) 態様 原告は、原告所有の普通貨物自動車(名古屋四四み五五一九、以下、「原告車」という。)を運転し、車両牽引装置であるレツカレーラーを使用して訴外前田商事所有の普通乗用自動車(トヨペツトコロナ、以下「コロナ」という。)を牽引して本件事故現場を進行中、レツカレーラーを牽引車両に連結する装置であるピントルフツク(「ピンドルフツク」とも呼ばれているが、以下、「本件ピントルフツク」という。)のレバーが開いたため、レツカレーラーが原告車からはずれて、レツカレーラー及びコロナが対向車線に逸走し、折から対向進行してきた訴外宮本守運転の普通貨物自動車(ライトエースバン、以下、「ライトエースバン」という。)に衝突して、コロナ及びライトエースバンが損傷した。

2  本件事故の原因

本件ピントルフツクには、次のような欠陥があり、本件事故は右の欠陥によつて発生したものである。すなわち、

(一) 本件ピントルフツクは、おおむね別紙図面1「ピントルフツク概略図」のような構造・形状のものであり、ピントルフツク本体のフツク部分にレツカレーラーの先端部の連結環をはめて連結するもので、レバーを下ろすと、バネの作用でストツパーが下りてレバーがロツク(ストツパーがピントルフツク本体と安全に噛み合つた状態をいう。)され、ストツパーの作用によりレバーが開くことを防止する構造になつているものであるが、本件ピントルフツクは、同図面のABの線(レバーの回転軸とストツパーの回転軸とを通る線)と同図面のCDの線(ストツパーと噛み合う本体側の面のXYを通る線)の二線の交点をEとする角AECが広すぎるうえ、本体と噛み合うストツパー側の面が丸みを帯びていて本体と実際に接触する面積が小さいため、レバーを安全にロツクした場合であつても、レバーが下方から上方へ向かう力を受けるとストツパーが上方に移動してはずれ、レバーが開くおそれがあるもので、この点に構造上の欠陥がある。

右のような欠陥を補うため、本体ピントルフツクは、レバー及びストツパーに開けられた穴に安全ピン(いわゆる割ピン)を挿入する構造になつているが、本来右の安全ピンはストツパーが安全に機能している場合には不要であるはずのものであり、ストツパーのバネが破損した場合など特別の場合にレバーが開くことを防止する役割を果たすにすぎないものであつて、本来、ピントルフツクは、安全ピンを挿入しなくてもレバーを安全にロツクすればレバーが開かない構造になつているべきものであり、現に三菱自動車工業株式会社(以下、「三菱自動車」という。)の製造したピントルフツクには安全ピンを挿入する構造になつていないものも存在する。したがつて、仮に、安全ピンを挿入することが本件ピントルフツクの使用上の要件であるとすれば、安全ピンの挿入を必要とすること自体が本件ピントルフツクの構造上の欠陥にあたるものである。

しかも、右の安全ピンは、その直径が安全ピン挿入用の穴の内径に比較して小さいため、穴から抜けやすい構造になつており、車両の走行による振動によつて抜け落ちる危険があるもので、この点も本件ピントルフツクの構造上の欠陥というべきである。

(三) そして、原告は、本件事故当日、自己の経営する自動車整備工場でレツカレーラーにコロナを塔載し、レツカレーラーを本件ピントルフツクに連結した際、安全に本件ピントルフツクのレバーをロツクして安全ピンを挿入したうえ発進したのであるが、本件ピントルフツクに前記のような欠陥があつたため、アスフアルト舗装道路を約五分間走行して本件事故現場に至るまでの間に安全ピンが抜け落ちたうえ、本件事故現場の道路にあつた直径約三〇センチメートル、深さ約五センチメートルの窪みの上を原告車の右前輪が通過した際、原告車及びスプリング装置の施されていないレツカレーラーが大きな衝撃を受け、その衝撃により本件ピントルフツクのレバーが開いたため、原告車からレツカレーラーがはずれてレツカレーラー及びコロナが逸走し、本件事故が発生したものである。

3  責任

(一) 被告株式会社栄光社(以下、「被告栄光社」という。)は、金属機械加工及び自動車部品の製造販売を目的とする会社であり、被告栄商工株式会社(以下、「被告栄商工」という。)は、自動車及びその部品・付属品並びに機械工具の製造販売を主たる目的とする会社である。そして、本件ピントルフツクは、被告栄光社が製造し、被告栄商工が前記レツカレーラーとともに、訴外イヤサカ工業株式会社、訴外株式会社名古屋機工及び訴外加藤機販を経由して販売したものを、原告が、昭和五一年四月二六日に右加藤機販から購入したものである。

(二) ところで、自動車またはその部品に欠陥があるときは、人の生命、身体等に危害を及ぼす危険があるものであるから、自動車部品の製造業者は、安全で欠陥のない自動車部品を設計し製造すべき高度の注意義務を負い、自動車部品の販売業者は、自動車部品を販売するにあたり当該部品の欠陥の有無を検討して欠陥のある自動車部品が流通することを防止すべき注意義務を負うものである。

(三) しかるに、被告栄光社は、前記のような欠陥のある本件ピントルフツクを設計、製造し、これを販売したもので、右の自動車部品製造業者としての注意義務を怠つた過失があり、また、被告栄商工は、前記欠陥のある本件ピントルフツクを漫然と販売したもので、右の自動車部品販売業者としての注意義務を怠つた過失があるから、被告らは、いずれも民法七〇九条の規定に基づき、本件事故によつて原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

(四) なお、原告は、右のとおり、加藤機販からレツカレーラー及び本件ピントルフツクを買受けた際、被告栄商工作成名義にかかる取扱説明書を加藤機販から受領したが、右説明書には、「お買い上げの本機につきましては、製造技術及び材質に依る欠陥が原因で、発生した故障に対してはお買い上げ販売店より、引渡しの完了した日から加算して一年間は、弊社の責任に於て、保証させて頂きます。」との商品保証規定が記載されており、右規定中の「本機」には、ピントルフツクが含まれるから、原告と被告栄商工との間には、原告が右加藤機販から前記レツカレーラー及び本件ピントルフツクを購入した際、これらについて品質保証契約が成立したものというべきである。そして、本件ピントルフツクが製造技術及び材質による欠陥があつて、故障し、これにより本件事故が発生したことは前記のとおりであり、また、本件事故は、原告が本件ピントルフツクの引渡を受けてから二日後に発生したもので、原告は、右引渡から一年以内である昭和五一年五月四日に被告栄商工の社員に対し本件事故による損害賠償を請求しているから、同被告は、右品質保証契約によつても本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

4  損害

原告は、本件事故によつて次のとおりの損害を被つた。

(一) コロナの修理費 金二〇万一二四〇円

原告は、レツカレーラーに塔載されていた前記コロナの修理費として金二〇万一二四〇円を要した。

(二) ライトエースバンの修理費及び代車料 金九八万七二二〇円

原告は、前記ライトエースバンの修理費及び代車料として合計金九八万七二二〇円を要した。

(三) 営業損害 金一五〇万円

原告は、本件事故当時、名古屋市中川区千音寺において、興和自動車の名称で自動車整備工場を経営し、平均して月額金三〇万円の収益を上げていたが、本件事故により、本件事故当日から昭和五二年二月末日まで営業を停止せざるをえなくなり、右期間中一か月当り平均金一〇万円の収入減が生じ、合計金一五〇万円の損害を被つた。

5  結論

よつて、原告は、被告ら各自に対し、本件事故に基づく損害賠償金二六八万八四六〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五一年四月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(本件事故の発生)の事実は不知。

2  同2の各事実中、三菱自動車の製造にかかるピントルフツクには安全ピンを挿入しない構造になつているものが存在することは認めるが、その余はいずれも否認する。

本件ピントルフツクは、安全にロツクをしてあれば、安全ピンを挿入していなくてもストツパーが上方にずれることはなく、レバーも開かない構造になつており、原告主張のような欠陥はない。

また、本件ピントルフツクに使用する安全ピンは鋼鉄製でいわゆる割ピンの形状をしており、バネの力で容易に抜けない構造になつているもので、走行中振動で抜けることはない。なお、右の安全ピンは、安全にロツクがされていることの確認(安全にロツクされた状態でなければレバー及びストツパーにあけられた穴の位置が合致せず、安全ピンを挿入することはできない。)の役割とストツパーがはずれてレバーが開くことを防止する役割とを有し、安全ピンの挿入はピントルフツク使用上の要件とされているものであるが、このことはピントルフツクの欠陥にはあたらないものである。

右のとおり、本件ピントルフツクには何ら欠陥はなく、現に、被告栄光社は、昭和三五年以降数十万個のピントルフツクを製造しているが、本件のようにレバーが開いて事故が発生したことは本件以外に一件もない。

そして、本件事故は、後記被告らの主張のとおり、もつぱら原告の本件ピントルフツク及びレツカレーラーの使用上並びに運転上の過失によつて発生したものであるから、本件ピントルフツクの構造上の欠陥が問題とされるべき筋合ではなく、仮に、本件ピントルフツクに何らかの欠陥があつたとしても、これと本件事故との間には因果関係がない。

3(一)  同3の(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実につき、原告主張のとおりの一般的注意義務があることは認める。

(三)  同(三)の事実中、本件ピントルフツクに欠陥があること及び被告らに製造ないし販売上の過失があることは否認し、その主張は争う。

(四)  同(四)の事実中、原告主張のとおりの商品保証規定が存在し、原告と被告栄商工との間に主張のとおりの品質保証契約が成立したことは認めるが、その余の事実は否認し、同被告の責任は争う。原告主張の商品保証規定には、適用除外項目として「取扱いの不備、保守点検の義務を怠つた為発生した不良」に対しては保証しない旨規定されているところ、後記被告らの主張のとおり、本件事故は原告が「取扱いの不備、保守点検の義務を怠つた為」発生したものであるから、被告栄商工には右商品保証規定に基づく損害賠償責任はない。

4  同4の(一)及び(二)の事実はいずれも否認し、同(三)の事実中、原告が興和自動車の名称で自動車整備工場を経営していることは認め、その余は否認する。

5  同5の主張は争う。

三  被告らの主張

1  レツカレーラーを牽引して自動車を運転走行するものは、自動車自体はもちろんその付属部品の安全な使用方法を確認し、かつ各部の点検を行ない、その取扱いの不備並びに部品使用上の手落ちがないようにして、レツカレーラーが牽引自動車から離脱しないよう運転走行すべき注意義務がある。

2  そして、本件ピントルフツク及びレツカレーラーを使用して車両を牽引する場合には、ピントルフツクのレバーを完全にロツクし、安全ピンを挿入したうえ、安全鎖を使用し、かつ、時速三〇キロメートルの制限速度を遵守して走行すべきものであり、被告らは、レツカレーラーの販売用パンフレツトに安全鎖を使用すべき旨記載し、レツカレーラーの取扱説明書に安全鎖及び安全ピンを使用すべき旨並びに時速三〇キロメートル以内の速度で走行すべき旨記載し、レツカレーラーには、その連結の際最も目につきやすい位置である牽引桿の前端部に走行中は必ずピントルフツクに安全ピンを使用すべき旨記載したステツカーを貼付し、ピントルフツクには牽引中は必ず安全ピンを使用すべき旨記載したステツカーを貼付して、右事項を励行するよう注意を促していたものであり、原告は、少なくとも右の取扱説明書及びレツカレーラーに貼付されたステツカーの交付を受けていたものである。

3  しかるに、原告は、本件事故当日、本件ピントルフツク及びレツカレーラーを使用して車両を運転するにあたり、右の注意義務を怠り、ピントルフツクのレバーを安全にロツクせず、安全ピンも挿入せず、安全鎖も使用しないでこれをレツカレーラーから取りはずした状態で、しかも前記制限速度を超える速度で走行したため本件事故を惹起したものであるから、本件事故はもつぱら原告の過失によつて発生したものである。

四  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1につき、主張のとおりの一般的注意義務があることは認める。

2  同2の事実中、原告が、被告ら主張の旨の記載のあるレツカレーラーの取扱説明書並びにレツカレーラーに貼付されたステツカーの交付を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3の事実中、原告が安全鎖を使用しなかつたことは認めるが、ピントルフツクのレバーを完全にロツクしなかつたこと及び安全ピンを挿入しなかつたことは否認し、原告の過失は争う。

なお、被告栄光社以外の業者が製造、販売したレツカレーラーには安全鎖は付属しておらず、このことは、安全鎖がなくても事故防止が可能であることを示すものであり、したがつて、安全鎖を使用しなかつたことが直ちに原告にレツカレーラー使用上の過失があることにはならないものである。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証自録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  まず、本件事故の発生の事実について判断する。

成立に争いのない乙第一一号証の一及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因1(本件事故の発生)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  そこで、本件事故発生の原因について判断する。

1  本件ピントルフツクの欠陥の存否

(一)  前掲乙第一一号証の一、本件ピントルフツクであることにつき争いのない検甲第一号証、三菱自動車の製造にかかるピントルフツクであることにつき争いのない検甲第二号証、被告栄光社代表者本人尋問の結果により被告栄光社の製造にかかるピントルフツクであることが認められる検乙第一号証、研究開発センター有限会社に対する鑑定嘱託の結果、鑑定証人鈴鹿武の証言、被告栄光社代表者、同栄商工代表者、原告各本人の尋問の結果を総合すると、

(1) 本件ピントルフツクは、おおむね別紙図面1「ピントルフツク概略図」のような構造・形状のものであり、本体のフツク部分にレツカレーラーの先端部の連結環を連結して牽引するための装置であつて、レバーを閉じると、バネの作用によりストツパーが下りてレバーがロツク(ストツパーがピントルフツク本体と安全に噛み合つた状態をいう。)され、ストツパーがはずれない限りレバーが開かない構造になつていること、

(2) 右の鑑定嘱託に基づいて、研究開発センター有限会社代表取締役であり自動車事故工学解析研究所長である鈴鹿武は、昭和五七年一月二八日に本件ピントルフツク、検甲第二号証のピントルフツク及び検乙第一号証のピントルフツクについて定地衝撃試験を行ない、翌二九日に本件ピントルフツクについて実車走行試験を行ない、更には右各ピントルフツクについて機構学的解析を行なつたこと、右の定地衝撃試験は、天秤台の一方に約九・四キログラムの砂袋を乗せ、他端にトリガーをはさみ込んで砂袋の側が落下しないようにしておき、急にトリガーをはずすことによつて、砂袋の側が落下して他端が跳ね上がり、これがピントルフツクに連結したレツカレーラーの牽引桿を下方から上方に叩き、これによつてレツカレーラーの連結環がピントルフツクのレバーに対し下方から上方へ向かう衝撃を加える試験であつて、使用するトリガーの長さによつて衝撃の大小を調節する方法によるものであるところ、本件ピントルフツクは、安全にロツクをし安全ピンを挿入しない状態における右の定地衝撃試験の結果、トリガーの長さ一六二ミリメートルの場合、五回の試験のうち一回レバーが開き、トリガーの長さ一七〇ミリメートルの場合、三回の試験中三回ともレバーが開き、トリガーの長さ一六六ミリメートルの場合、三回の試験のうち二回レバーが開いたこと、右のトリガーの長さ一六六ミリメートルの場合のレバー下面中央部に加わる衝撃の程度はおおむね二一・七キログラムの質量が毎時四・三キロメートルの速度で衝突した場合に相当するもので、右の実験結果は、右の程度を超える力が加えられた場合には、ロツクされた状態であつても本件ピントルフツクのレバーが高い割合で開くことを示していること、一方、検甲第二号証のピントルフツク(三菱自動車製のもの)は、右と同様の試験の結果、トリガーの長さ二〇〇ミリメートルの場合、四回の試験中一回もレバーが開かず、検乙第一号証のピントルフツクは、右と同様の試験の結果、トリガーの長さ一六六ミリメートルで二回、一八〇ミリメートルで一回、二〇〇ミリメートルで二回の試験中一回もレバーが開かなかつたこと、また、右の実車走行試験は、名古屋市中川区助光町庄内川堤防道路上で実施されたものであるところ、それは、原告から試験用に提供された牽引車両の後部に本件ピントルフツクを取り付け、それに原告から試験用に提供されたレツカレーラーを連結し、レツカレーラーに普通乗用自動車(トヨタ、コロナマークⅡピツクアツプ、四八年型RT六九、車両重量九三〇キログラム)を搭載し、深さ四・八ないし六・四センチメートル、さしわたし九四ないし一一〇センチメートルの五個のゆるやかな曲線で形成された窪みのある未舗装道路を時速約三四ないし三七キロメートルで走行する方法による試験であり、本件ピントルフツクのレバーをロツクした状態で(安全ピンは挿入せずに)、五回走行試験を行なつたところ、五回とも走行中の衝撃によつてレバーが開き、レツカレーラーがはずれたこと、更に右の各ピントルフツクに対する機構学的解析によると、本件ピントルフツクは、ストツパーとフツク本体との接触面付近が別紙図面2のような形状になつており、右接触面のうち実際に接触する部位は、本体側の接触面の最上部付近であるうえ、その上部の角の部分が丸くなつていてストツパーの脱出が容易な形状であること、これに対し、検乙第一号証のピントルフツクは本体側の接触面の中央部付近が、また検甲第二号証のピントルフツクは本体側の接触面の最下部付近がそれぞれ実際に接触する形状になつており、しかもいずれも接触面を機械加工して「丸み」を除いているため、ストツパーがはずれにくい形状になつていること、また、本件ピントルフツクは、別紙図面2におけるストツパーの本体との接触部位Aとストツパーの回転軸Bとを結ぶ線ABとA部分におけるストツパーの接触面の下方延長線のなす角度が直角でなく約七二度になつているため、レバーが持ち上げられてストツパーの回転軸Bが矢印の方向に回転すると、ストツパーの接触面に上方に滑ろうとする力が働き、接触面の摩擦力次第では、ストツパーが滑つてはずれる可能性があること、これに対し、検乙第一号証及び検甲第二号証の各ピントルフツクは、右に対応する角度がほぼ九〇度に近い(検乙第一号証のピントルフツクは約八七度、検甲第二号証のピントルフツクは約九〇度。)ため、いずれもレバーが持ち上げられる力を受けたときストツパーが滑り上がりにくい構造となつていること、前記鈴鹿武は、以上のような試験及び解析の結果、本件ピントルフツクは、検乙第一号証、検甲第二号証の各ピントルフツクに比較して車両を牽引して走行する際に加わる中程度の衝撃によつてもストツパーがはずれてレバーが開きやすい旨判断していること(なお、右の各試験に際し、原告本人が定地衝撃試験の装置を提供し、実車走行試験における車両等の提供をしたうえ、レツカレーラーをピントルフツクに連結する等の補助作業に従事したことが認められるが、それは、鈴鹿武が試験に使用する装置・車両等を入手するのが困難であつたため、便宜原告から提供を受け、かつ、その際原告の手を借りたものにすぎないものであつて、右装置・車両等の提供を受けたことが右試験結果の客観性に影響を与えるものとは解されないし、また、右補助作業に従事したことについても右鈴鹿武において終始原告を指示し、ピントルフツクのレバーについては自ら十分ロツクされていることを確認したうえ、試験を行なつたことが認められるから、右のように原告が各試験に関与したことは、右鈴鹿武の判断ないし右鑑定嘱託の結果に対する信用性に疑いを生ぜしめる事情にはあたらないものと認められる。)、

(3) 本件ピントルフツクには、レバーとストツパーに安全ピン挿入用の穴があけられており、レバーをロツクして各穴の位置が合致した状態で安全ピンを挿入すると、レバーが力を加えられてもストツパーの位置が移動せず、したがつてレバーが開かない構造になつており、安全ピンの挿入は、レバーが安全にロツクされていることの確認とレバーが開くことを防止する意味とを有すること、右の安全ピンは鋼鉄製でいわゆる割ピンの形状をしており、先端を若干開いた状態にしたうえ、これを手で閉じつつ右の穴に挿入するとバネの抵抗により容易に抜けない状態になること、本件事故当日、警察官によつて行なわれた実況見分の際、警察官が安全ピンの密着状態を調べたところ、ゆるみもなく、穴に差し込む場合、力を入れなければ安全ピンが入つていかない状態であつたこと、

(4) 検甲第二号証のピントルフツクは、三菱自動車の製造にかかる牽引荷重四分の一トン用のものであるが、もともと安全ピンを挿入する構造になつておらず、安全ピンを使用しなくても安全に使用しうる性能のものであること、このように、一般に安全ピンを使用しない構造で、しかも安全ピンを使用しなくても安全に使用しうる種類のピントルフツクも存在し、利用されていること、

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  右認定の事実によると、本件ピントルフツクを使用する際、レバーを安全にロツクしたうえ安全ピンを挿入したとすれば、一旦挿入した安全ピンが走行時の振動や衝撃により容易に抜け落ちるようなことはなく、かつ、安全ピンを挿入していればレバーが開くことはないが、レバーを安全にロツクした状態であつても、安全ピンを挿入していない場合には、車両の走行中、道路の凹面通過時の中程度の衝撃によつてストツパーがはずれ、レバーが開くおそれがあるものであり、したがつて、これを使用する者がレバーをロツクしたとしても、安全ピンの挿入を忘れたときなどには走行中の衝撃によつてレバーが開いて牽引車両とレツカレーラー及び被牽引車両が離れ、これが他に逸走して衝突事故などを起す危険性があるということができる。

してみると、本件ピントルフツクは、その附属する安全ピンと一体として観察すれば、一応安全な車両連結装置といいうるが、本件ピントルフツクと類似の車両連結装置には安全ピンを使用しなくても安全に使用しうる種類のものがあつて、これも一般に広く使用されている関係上、ピントルフツクは、一般に安全ピンを使用しなくても安全なものとして利用されるということも十分予想されうるところであるから、安全ピンを使用しなければロツクしたレバーが開いてしまうような本件ピントルフツクは、車両連結装置として通常具備すべき安全性を有しないものというべく、構造上の欠陥があつたといわざるをえない。

なお、被告らは、レツカレーラーの取扱説明書に安全鎖及び安全ピンを使用すべき旨記載し、レツカレーラーの牽引桿の前端部に走行中は必ずピントルフツクに安全ピンを使用すべき旨記載したステツターを貼付して、右事項について顧客に注意を促していたこと、原告が右の取扱説明書及びステツカーの交付を受けていたことは当事者間に争いないところ、原告は、それにもかかわらず、本件ピントルフツクに安全ピンを挿入せず、安全鎖も使用しないで牽引走行していたことは後記認定のとおりであるが、原告の本件ピントルフツクの使用は常軌を逸した使用方法とはいえないから、このことは、右認定の本件ピントルフツクの構造上の欠陥を否定すべき事由ということができず、たかだか後記のとおり過失相殺として考慮すべき事情にとどまるものとみるのが相当である。

2  本件事故発生の状況

右一及び二の1に認定した事実に、前掲乙第一一号証の一、成立に争いのない乙第一一号証の二及び原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を総合すれば、原告は、本件事故当日、原告車の後部に取付けられた本件ピントルフツクにレツカレーラーを連結し、これにコロナを搭載して発進する際、ピントルフツクのレバーをロツクしたものの、安全ピンを挿入せず、しかも、安全鎖を取りはずしてこれを使用しない状態で発進し(安全鎖を使用していなかつたことは当事者間に争いがない。)、舗装道路を約五分間走行したのち、本件事故現場を時速約三〇キロメートルで走行中、路面にあつた直径約三〇センチメートル、深さ約五センチメートルの窪みの上を原告車の右前輪が通過した際、原告車及びレツカレーラーが衝撃を受け、右衝撃により本件ピントルフツクのレバーが開いたため、レツカレーラー及びコロナが原告車からはずれて逸走した結果、本件事故が発生したことが認められる。なお、原告本人の供述中、本件ピントルフツクに安全ピンを挿入したうえ発進した旨の供述部分は、前認定のとおり、右の安全ピンは、一旦挿入したのちは車両の振動等によつては容易に抜けない性質・形状のものであることに照らして措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、本件ピントルフツクが車両連結装置としての安全性を具備していなかつたという前示欠陥と原告が本件ピントルフツクに安全ピンを挿入せず、安全鎖も使用しないで走行していたという過失とが競合して本件事故が発生したものというべく、本件ピントルフツクの前示欠陥と本件事故との間には因果関係があるものというべきである。

三  そこで、被告らの責任について判断する。

1  被告栄光社は、金属機械加工及び自動車部品の製造販売を目的とする会社であり、被告栄商工は、自動車及びその部品・付属品並びに機械工具の製造販売を主たる目的とする会社であること、本件ピントルフツクは、被告栄光社が製造し、被告栄商工が前記レツカレーラーとともに、訴外イヤサカ工業株式会社、訴外株式会社名古屋機工及び訴外加藤機販を経由して販売したものを、原告が、昭和五一年四月二六日に右加藤機販から購入したものであること、自動車またはその部品に欠陥があるときは、人の生命、身体等に危害を及ぼす危険があるものであるから、被告栄光社は、自動車部品の製造業者として、安全で欠陥のない自動車部品を設計し製造すべき高度の注意義務を負い、被告栄商工は、自動車部品の販売業者として、自動車部品を販売するにあたり、当該部品の欠陥の有無を検討して欠陥のある自動車部品が流通することを防止すべき注意義務を負つていたことは当事者間に争いがない。

2  そして、本件ピントルフツクに前記のような欠陥があり、右欠陥が一つの原因で本件事故が発生したことは前示のとおりであるから、被告栄光社は、前記欠陥のある本件ピントルフツクを設計、製造したことにつき、右の自動車部品製造業者としての注意義務を怠つた過失があり、また、被告栄商工は、前記欠陥のある本件ピントルフツクを販売したことにつき、右の自動車部品販売業者としての注意義務を怠つた過失があるものといわざるをえない。したがつて、被告らは、民法七〇九条の規定に基づき、本件事故によつて、原告が被つた損害を賠償すべき責任があるものというべきである。

四  次に損害について判断する。

1  コロナの修理費 金一〇万一二四〇円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証の二によれば、原告は、本件事故によつて損傷したコロナを自己の経営する自動車整備工場において修理し、これに金一〇万一二四〇円を要したことが認められ、これにより、原告が右と同額の損害を被つたものと認めるのが相当である。

なお、原告本人尋問の結果によれば、右コロナは、訴外前田商事の所有にかかるところ、顧客に販売する契約が成立し、原告経営の修理工場で販売のための修理をしたのち運搬する途中で本件事故により損傷したこと、右損傷のため右の販売契約は破談になり、結局同車を販売することはできなかつたこと、原告は、コロナの評価損ないし右の販売契約が破談になつたことに対する補償及び本件事故のため右前田商事に迷惑をかけたことに対するいわゆる迷惑料として金一〇万円を右前田商事に支払つたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。しかしながら、右認定事実をもつてしては、いまだ右前田商事が被つたコロナの評価損の存在及びその額ないし右販売契約破談による損害あるいは迷惑料を支払うべき損害についての具体的な金額を認定することはできないし、他にこれらの具体的な損害額を認定するに足りる証拠はない。したがつて、原告が前田商事に支払つた右金一〇万円が被告らに請求しうべき損害にあたるものとは認めるに足りないものというほかはない。

2  ライトエースバンの損傷による損害 金七〇万四〇〇〇円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証の三によれば、ライトエースバンは、本件事故により全損して廃車となり、原告は同車の所有者である訴外宮本守に対し、本件事故による被害の弁償として、同車種の新車を金六九万二〇〇〇円で購入して引渡し、その際、右新車の登録費等の諸経費として金九万一二二〇円を支出し、また、本件事故当日から右新車引渡の日までのうち五〇日間、自己所有の自動車を代車として右宮本に提供し、右代車料として金二〇万四〇〇〇円の損害を被つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかしながら、右のライトエースバンは、本件事故当時使用されていた自動車であつて、いわゆる中古車とみられるものであるから、その全損による損害は、同車の本件事故直前の中古車としての価額を上回ることはないものというべきであり、右認定の新車購入費及びこれに伴なう諸経費をもつて直ちに本件事故による損害と認めるのは相当でないところ、前掲乙第一一号証の一によつて認められる右ライトエースバンの外観、右認定のとおり原告において新車を購入してこれを引渡したうえこれに伴なう諸経費を負担することをもつて被害の弁償としていること等の事情に鑑みると、右ライトエースバンは比較的新車に近い価値を有する中古車であつたものと推認することができる(右推認を覆えすに足りる証拠はない。)から、これらの事情を総合勘案すれば、右ライトエースバンの本件事故直前における価額を少なくとも前記新車購入費(登録費等を含む)の七割弱である金五〇万円を下るものでないと認めるのが相当である。

そして、右の事実関係のもとにおいては、右ライトエースバンの損傷により、原告みずから損害を被つたものというべきところ、その損害は、右認定の同車の価額金五〇万円と前認定の代車料金二〇万四〇〇〇円との合計金七〇万四〇〇〇円をもつて相当と認める。

3  営業損害

原告が、本件事故当時、名古屋市中川区千音寺において興和自動車の名称で自動車整備工場を経営していたことは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証の四によれば、原告は、本件事故当時、右整備工場の経営により、平均して月額約金三〇万円の収益を得ていたこと、右当時、原告は、訴外久保田自動車の作業所の半分を借り、その反面久保田自動車の車両の修理を引受けていたこと、ところが、原告は、本件事故に対する捜査機関の捜査に応じるべく、実況見分に三回立会し、警察署に六回、検察庁に三回各出頭し、これらによる外出のため右久保田自動車の車両の修理の作業に遅滞を生じたことを一因として久保田自動車との関係が円満を欠くに至り、久保田自動車から右作業所の貸借契約を破棄されるに至つたこと、このため、原告は、以後昭和五二年三月に新たな作業所を確保するまでの約一〇か月間屋外駐車場を借りて整備工場経営を継続していたものの、屋外であるため天候等に左右されて作業能率が低下し、その間収益が半減したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

しかしながら、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右の実況見分への立会、警察署、検察庁への各出頭は、原告が捜査機関から任意の出頭を求められてこれに応じた結果にすぎないものと認められる(右認定に反する証拠はない。)から、これら捜査機関への協力に伴なう損害を直ちに本件事故による損害と認めることはできないものというべきであり、しかも、右のように実況見分への立会、警察署、検察庁への出頭をしたことから、作業所の貸借契約が破棄されるに至り、これにより原告主張のごとき営業上の損害が生じることは通常予見し難いところであるから、原告主張の営業損害は、ひつきよう、本件事故と相当因果関係のある損害とは認め難いものといわざるをえない。

五  更に、過失相殺について検討する。

原告に本件ピントルフツクに安全ピンを挿入せず、しかも安全鎖を使用しないでこれをレツカレーラーから取りはずした状態で牽引走行した過失があり、本件事故は、右の原告の過失と前示の本件ピントルフツクの欠陥の双方が原因となり発生したものというべきであることは前示のとおりであるから、右原告の過失の内容、前示の本件事故発生の状況等を総合勘案すると、原告には、本件事故の発生につき三割の過失があるものと認めるのが相当である。

よつて、前認定の損害額合計金八〇万五二四〇円から過失相殺として三割を控除すると、原告の損害額は金五六万三六六八円となる。

六  以上によれば、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、本件事故に基づく損害賠償金五六万三六六八円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五一年四月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤 小林和明 松本久)

ピントルフック概略図

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

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